事例の概要
東京都中野区の保育施設で、屋上からの漏水後に天井にカビが発生し、原因を特定できず、対応範囲を決めかねていました。そこで、4つの空間を比較する詳細調査を実施し、室内が主な発生源であることを突き止めました。客観的な根拠に基づき、対策範囲を限定できた調査事例です。
課題
- 天井表面のカビが屋上漏水に起因するのか、室内環境が原因なのか判断できなかった
- 原因が不明なため、施工会社としてどの範囲まで対応すべきか方針を定められなかった
- 乳幼児が過ごす施設のため、一般的な基準以上の衛生環境と安全性が求められていた
成果
- 天井裏はカビの主な発生源ではなく、1階室内が汚染源であると数値で特定できた
- 大規模な天井裏の改修が不要となり、対策範囲を室内側に限定することができた
- 客観的なデータが揃い、施設側へ対応範囲を明確に説明する材料が整った
抱えていた課題/依頼の背景

今回ご相談いただいたのは、ある保育施設の施工や修繕を担当されている建設会社様(以下、同社)でした。施設で屋上からの漏水が発生し、その直下にあたる保育室の天井裏でも水濡れが確認され、さらには天井ボードの表面にカビが見つかったとのことでした。
しかし、状況にはいくつかの不可解な点がありました。漏水が原因であれば、カビは湿気の多い天井裏から発生し、ボードの裏面にも付着が見られるはずです。ところが、実際には天井裏に目立ったカビ臭はなく、ボードの裏面もきれいな一方で、表面にだけカビが発生しているという状態でした。この矛盾から、ご担当者様は「カビの原因は本当に屋上からの漏水なのだろうか」という疑問を抱えていらっしゃいました。
同社は施工会社というお立場のため、原因が建物の問題なのか、それとも室内の環境管理の問題なのかによって、今後の対応方針が大きく変わります。そのため、専門家による客観的な調査報告書を必要とされていました。また、対象が乳幼児の過ごす施設であることから、衛生環境には万全を期したいという強い思いもお持ちで、弊社にご相談いただく運びとなりました。
今回案件のポイント
本件の成否を分けたポイントは、「屋上由来の湿気」と「室内由来の湿気」、どちらがカビの直接的な発生源なのかを科学的に切り分けることにありました。漏水の履歴があるからといって、必ずしも天井裏が汚染源であるとは限りません。もし室内側が発生源であれば、対策の方向性はまったく異なり、屋上の追加防水工事や大がかりな天井裏の改修は不要になります。
そこで、1階の室内と天井裏、2階の室内と天井裏という4つの空間をそれぞれ独立したエリアとして測定し、空気中に浮遊するカビの数を比較する調査を計画しました。単一の箇所を調べるだけでは比較ができず、原因の特定には至りません。天井ボード表面に付着したカビも採取し、空気中の状態と突き合わせることで、多角的に発生源を絞り込んでいく。この調査設計こそが、ご担当者様の疑問に答えるための鍵となりました。
また、2階でカビの数値が上昇していた点も看過できないポイントでした。これが2階固有の発生源によるものなのか、それとも1階から上昇したカビの胞子が滞留しているだけなのかで、対策は変わってきます。上下階の関係性まで含めて考察することで、無駄のない最適な対策範囲を導き出すことを目指しました。
依頼から診断完了までの流れ

ご依頼をいただいてから診断完了までの主な流れは、以下のとおりです。
- 現地調査
1階室内、1階天井裏、2階室内、2階天井裏に複数の測定点を設け、建物内におけるカビの分布状況を正確に把握するための調査を行いました。室内と天井内それぞれの空気、そして天井ボード表面の付着カビを採取し、多角的な分析を進めます。 - 1階室内の測定
天井面に目視で確認できるカビがあり、空気中の浮遊菌を測定したところ、多くの地点で準汚染状態であることが確認されました。これは、特定のボードだけの問題ではなく、1階の空間全体にある程度のカビ胞子が存在していることを示唆しています。 - 1階天井裏の測定
空気中の浮遊菌数は一般の住宅やオフィスと同等の準清潔区域の範囲内であり、カビの繁殖も確認されませんでした。漏水の形跡はあったものの、現状、天井裏がカビの発生源となっている可能性は低いと評価しました。 - 2階室内の測定
一部の測定点で数値の上昇が見られました。しかし、2階自体に強いカビの発生源があるというよりは、温度差による空気の流れ(スタック効果)によって、1階から上昇してきた胞子が滞留・増殖している可能性が高いと考えられました。 - 2階天井裏の測定
1階と同様、浮遊菌検査では準清潔区域であり、材質や湿度の条件から見てもカビが繁殖しやすい環境ではありませんでした。清潔域(問題なし)と判断しています。 - 含水率測定
天井や壁の含水率は概ね低い数値でした。一方で、木部の一部に高い数値を示す箇所も確認され、全面的ではないものの、局所的に湿気の影響を受けた可能性が残ることを報告しました。 - 報告書の作成・評価
調査から約2週間後、詳細な報告書を提出しました。現状の浮遊菌レベルで直ちに健康被害が生じる可能性は低いとしつつ、乳幼児が長時間過ごす施設であることを踏まえ、安全を確保する観点から早期のカビ除去と環境清浄化を推奨しました。 - 対策方針の提示
準汚染以上のエリアについてカビ除去作業を推奨するとともに、日常的な清掃や換気、空気清浄機や除湿機の活用を組み合わせる、施設運用面での改善もご提案しました。施工だけで終わらない、根本的な環境改善の必要性をお伝えしています。
得られた結果
1階・2階の天井裏がいずれも準清潔区域であることが確認され、天井裏が主なカビ源ではないことを数値で証明しました。対策を優先すべきは準汚染状態であった1階室内であると特定し、原因認識を正しく更新することができました。
これにより、大規模な天井裏改修や2階を含む一律の施工が不要となり、対策範囲を効果的に絞り込むことができました。
また、建物側の要因と室内環境側の要因を切り分けたことで、建設会社様が施設側へ対応範囲を説明するための客観的な根拠が整いました。
今回案件で発揮できたハーツリッチの強み
1:4空間比較調査で原因を特定し、「漏水が原因」という思い込みを覆す
ご相談いただいた当初、建設会社様は「屋上からの漏水がカビの主原因ではないか」という仮説をお持ちでした。目に見える事実に思考が縛られてしまうのは、無理もないことです。
私たちは、その仮説を検証するため、1階・2階の「室内」と「天井裏」をそれぞれ独立した4つの空間と捉え、比較調査を行いました。漏水の事実と実際の汚染状況を冷静に切り分けて分析する。これは、建築とカビ、両方の知見を持つ弊社だからこそ可能なアプローチです。
その結果、漏水のあった天井裏はカビの発生源ではなく、主な汚染源は1階室内であると数値で明確に証明できました。思い込みによる大規模な天井裏改修を回避し、お客様が本当に解決すべき課題を特定できたことは、今回の大きな成果の一つです。
2:上下階の相関分析で、2階への過剰な対策を未然に防ぐ
調査を進めると、2階の室内でもカビの数値が上昇していることが分かりました。この事実だけを捉えると、「2階にも対策が必要だ」という判断になりがちです。
しかし私たちは、1階からのカビ胞子が空気の流れに乗って上昇し、2階に滞留している可能性(スタック効果)を指摘しました。これは、建物全体の構造や空気の流れを理解していなければ、たどり着けない考察です。
この分析により、2階への個別対策の優先度は低いという結論を導き出しました。もし2階への対策を優先していれば、それは根本原因を見過ごした対症療法となり、コストと時間を無駄にしてしまうところでした。的確な分析によって、お客様を誤った判断からお守りできたと考えています。
3:施設の用途に合わせた評価で、数値以上の安全・安心を提案する
調査結果の数値だけを見れば、直ちに健康被害が出るレベルではありませんでした。しかし、私たちがご提案したのは「早期の対策」です。なぜなら、そこが多くの時間を乳幼児が過ごす保育施設だったからです。
私たちは、単に数値を報告するだけでなく、その施設が持つ特性や背景までを考慮して、最適な安全基準をご提案します。今回は、カビの除去という直接的な対策に加え、日常の清掃や換気といった運用面での改善も併せてお伝えしました。
施工して終わり、ではなく、長期的な安心をどう維持していくか。その視点まで含めてご提案することで、建設会社様が求める高い安全基準に応え、施設の方々にも心からご納得いただける解決策を示すことができました。
代表 穂苅からのコメント
今回の案件で最も重要だったのは、漏水という目に見える事実と、カビ発生の本当の原因とを、科学的な根拠に基づいて切り分けることでした。建築とカビの生態、両方の知見を持つからこそ、多角的な調査を設計し、お客様の思い込みを覆す客観的なデータをご提示できたのだと自負しております。過剰な工事というお客様の負担を防ぎ、本当に必要な対策に絞り込めたとき、この仕事の意義を改めて感じます。
類似の支援事例
以下の類似支援事例も、ぜひ併せてご覧ください。
【詳細調査】製品不良起点のカビ調査で対応範囲を明確化し、過剰対応を回避したメーカー様事例
カビ原因調査でお困りの方は、ハーツリッチにご相談ください
ハーツリッチは、建築と生物学の知見で根本原因を解明するカビ対策の総合専門会社です。
本事例でお伝えしてきたとおり、漏水とカビ発生が重なり、原因が特定できず対応にお悩みの方は、ハーツリッチで解決できる可能性が高いです。
無料調査や概算のお見積り、詳細な有料調査のご希望、その他のご相談・ご質問がある方は、お気軽にお問い合わせください。


今回の案件で最も重要だったのは、漏水という目に見える事実と、カビ発生の本当の原因とを、科学的な根拠に基づいて切り分けることでした。建築とカビの生態、両方の知見を持つからこそ、多角的な調査を設計し、お客様の思い込みを覆す客観的なデータをご提示できたのだと自負しております。過剰な工事というお客様の負担を防ぎ、本当に必要な対策に絞り込めたとき、この仕事の意義を改めて感じます。