ホテルの客室、福祉施設の居室、浴室や脱衣室の周辺などで、次のような問題は起きていないでしょうか。
- カビを除去しても、数か月から数年で再発する
- 壁紙を張り替えたのに、同じ場所に黒い点が出てくる
- 消臭や除菌を行っても、しばらくするとカビ臭が戻る
- 特定の客室・居室だけで繰り返し発生する
- 最上階、外壁側、梁や柱の周辺に集中して発生する
このような場合、清掃不足だけが原因とは限りません。表面に見えているカビは、建物内で起きている湿気や水分の問題の「結果」である可能性があります。
カビ対策で重要なのは、カビを除去することそのものよりも、カビを発生させている水分がどこから来ているのかを確認することです。米国環境保護庁(EPA)の学校・商業施設向けガイドでも、カビ対策の要点は水分の管理であり、水分の問題を解決しないまま清掃だけを行っても再発する可能性が高いと説明されています。
この記事の要点
- 「壁内部のカビが石膏ボードを通り抜けて室内に出てきた」と単純に決めつけることはできません。
- 実際には、同じ水分原因で壁内と室内に別々に発生している、隙間からカビ臭や胞子が入っている、石膏ボード自体が長期間湿っている、などが単独または複合して起きています。
- 水分の供給源は、屋上・外壁・構造(熱橋)・配管・空調換気設備・使用状況など複数にわたります。
- 室内側の清掃や張り替えだけでは、水分原因が残っている限り再発する可能性があります。
「壁の中のカビが、石膏ボードを通って出てきた」とは限りません
現場では、次のように説明されることがあります。
よく言われる説明
壁の中で増えたカビが、石膏ボードを通り抜けて室内側に出てきたのではないか。
実際に起きていること(単独または複合)
- 壁内部と室内側が、同じ原因で別々に湿っている 屋上、外壁、配管、空調設備などから水分が供給され、壁内部と室内側の両方にカビが発生するケースです。壁内部のカビがそのまま移動したのではなく、同じ水分原因によって、それぞれの場所に発生したと考えます。
- カビ臭や胞子が、隙間を通って室内に入っている 壁や天井は完全な密閉空間ではありません。コンセント、スイッチ、点検口、配管・配線の貫通部、巾木、天井と壁の取り合いなどには空気が移動する隙間があり、壁内部や天井裏で発生したカビ臭の原因物質や胞子が、そこを通って室内に入ることがあります。
- 石膏ボード自体が長期間湿っている 漏水や結露が長期間続くと、石膏ボードの紙、壁紙、接着剤、下地材などが湿った状態になります。その結果、ボードの裏側だけでなく、室内側にも連続的な汚染が広がることがあります。
したがって、室内側のカビだけを見て「壁の中から通り抜けてきた」と判断するのではなく、どこから水分が供給されているのかを調べる必要があります。
建物の中では、何が起きているのでしょうか
壁内部や天井裏でカビが増える仕組みは、主に次のような流れです。
- 湿った空気や水が、壁・天井内部に入る 屋上や外壁からの雨水の浸入、浴室・脱衣室・厨房・洗濯室で発生した水蒸気、配管からの微量な漏水、冷媒管・冷温水管・ダクトの結露、配管や配線の貫通部からの空気の流入、空調や換気による室内外の圧力差など、入口はさまざまです。目に見える漏水がなくても、湿った空気が継続的に入ることで壁内部が高湿度になる場合があります。
- 建物内部に、周囲より冷たい部分ができる 冷房によって壁や天井の室内側が冷やされます。加えて、断熱材が不足している場所、断熱材がずれている・途切れている場所、屋上スラブ・梁・柱などの熱橋部分、冷たい配管やダクトの周辺、外気が入り込んでいる部分では、局所的に温度が低い部分や温度差の大きい部分が生じます。
- 高湿度や結露が発生する 湿った空気が冷たい面に触れると、その周辺の相対湿度が上昇します。条件によっては、目に見える水滴がなくても材料の表面がカビの生育しやすい高湿度状態になり、さらに温度が下がれば結露が発生します。国内でも、断熱・気密の技術資料において、内部に入り込んだ水蒸気が冷えた面に触れることで内部結露が生じること、断熱と気密の処理が重要であることが示されています。
- 壁内部や天井裏が、乾きにくい 壁内部や天井裏は、空気が動きにくく、日常的に清掃できず、水分があっても発見しにくい場所です。石膏ボードの紙、木材、ほこりなどもあります。一度湿ると乾燥に時間がかかるため、水分の供給が続くと、室内側を清掃している間にも見えない場所で汚染が広がることがあります。
補足:カビは空気中を漂っているだけでは増えません。増殖するのは、水分がある「表面」の上です。だからこそ、空気の除菌や消臭ではなく、どの面が濡れているのかを特定することが対策の出発点になります。
原因は、屋上・構造・設備・運用の複合であることがあります
ホテルや福祉施設のカビは、ひとつの原因だけで発生しているとは限りません。建物の外皮(屋上・外壁)、空調・換気設備、給排水設備、施設の使用状況などが重なっているケースがあります。
実際に、台風時に温かく湿った外気が屋上の脱気口などから建物内部に入り込み、館内の広い範囲でカビが発生した事例もあります。米国暖房冷凍空調学会(ASHRAE)の湿気管理に関する専門委員会でも、建物の湿気は外気・建物外皮・設備システム・利用者の活動が相互に影響し合って蓄積する、あるいは抑えられるものとして扱われています。
- 屋上防水の劣化・部分的な漏水 笠木、パラペット、ドレンまわりからの浸水を含みます。
- 屋上の断熱性能不足・脱気口などからの外気流入 断熱材の欠損やずれ、施工の不連続も同様です。
- 外壁のひび割れ、シーリング材の劣化 建物の形状による局所的な温度差も影響します。
- 梁・柱・スラブなどの熱橋 外壁と床、屋上と外壁などの取り合い部分で温度差が生じます。
- 配管・冷媒管・ドレン配管の漏水や結露 断熱材の劣化、ドレンの詰まり、二重壁やふかし壁内部の空気だまりを含みます。
- ダクト表面の結露、空調機内部やドレンパンの汚染 給気不足と排気過多による負圧、給気口の閉鎖やフィルターの目詰まり、設計風量が確保されていないケースもあります。
- 使用状況 冷房温度を低く設定している、入浴や洗濯による水蒸気が多い、扉を長時間閉め切っている、空室の換気・除湿を停止している、家具を外壁に密着させている、清掃後の水分が十分に乾いていない、など。
特に、最上階や屋上直下の客室・居室だけで発生している場合は、屋上の防水だけでなく、断熱仕様や断熱材の状態、天井裏の温湿度なども確認する必要があります。同じ高さや同じ線上にカビが並ぶ場合は、梁やスラブなどの構造部分が関係していることがあります。
ただし、これらの状況があるからといって、それだけで原因を特定することはできません。
発生の仕方から、原因の見当をつける
現地調査の前に、次のような整理をしておくと、確認すべき範囲を絞り込みやすくなります。
| 発生の仕方 | まず確認したい項目 |
|---|---|
| 最上階・屋上直下に集中している | 屋上防水、笠木・ドレンまわり、屋上の断熱仕様と断熱材の状態、天井裏の温湿度 |
| 外壁側の壁、同じ高さに線状に並ぶ | 外壁のひび割れ・シーリング、梁やスラブの熱橋、断熱材の欠損・ずれ |
| 降雨や台風のあとに悪化する | 雨水の浸入経路、屋上の脱気口・換気口、外壁開口部まわり |
| 水回りに隣接した壁・天井で起きる | 浴室・脱衣室・洗濯室の排気風量、配管の漏水と結露、貫通部の処理 |
| 空調を運転するとカビ臭が強くなる | 空調機内部・ドレンパン、ダクトの結露と汚染、フィルターの状態 |
| 使っていない空室で強く出る | 空室時の換気・空調運転の停止、扉の閉め切り、除湿の有無 |
| 建物の広い範囲で同時に出ている | 給排気バランスと室内外の圧力差、外気処理、館内全体の湿度管理 |
この表は原因を確定するものではなく、確認の優先順位を決めるための手がかりです。実際には複数が重なっていることがあります。
表面のカビ取りだけでは、再発を止められないことがあります
カビが発生した場合、衛生面や美観の回復のために、表面の除去や壁紙の交換が必要になることがあります。しかし、次の処置だけでは、建物内部の水分原因は解消されません。
- 表面をカビ取り剤で拭く
- 壁紙を張り替える
- 室内側に防カビ剤を施工する
- 消臭・除菌を行う
- 空気清浄機を設置する
- カビが見えている部分だけを塗装する
屋上からの漏水、断熱欠損、配管結露、換気不良などが残っていれば、カビが再発する可能性があります。表面処理が不要なのではなく、水分原因を確認したうえで、除去・修復・再発防止を行う順番が重要です。
原因を解明するには、建物と設備の両方を調べます
カビの発生原因は、写真や目視だけでは判断できないことがあります。調査では、必要に応じて次のような項目を確認します。
発生状況・履歴の確認
- 発生している部屋、位置、高さ、方角
- 最上階、外壁側、水回り周辺などとの関係
- 降雨後に悪化していないか
- 冷房の設定温度と運転時間、空室時の換気・空調の状態
- 過去の漏水、改修、設備交換の履歴
建物の測定
- 壁や天井の含水率
- 表面温度と温度分布(サーモグラフィ)
- 室内・壁内・天井裏の温湿度推移(データロガー)
- 屋上、外壁、防水、断熱材の状態
- 壁内部や天井裏の目視・内視鏡確認
設備・空気の確認
- 配管、ドレン、ダクト、空調機の状態
- 給排気量、室内外の圧力差、空気の流れ
- 必要に応じた付着菌・浮遊菌の測定
カビの種類や菌数を調べることは、汚染状況を把握するうえで有効です。ただし、菌の検査だけでは、屋上・断熱・構造・配管・空調などのどこに原因があるかまでは特定できません。微生物調査と建築・設備調査を組み合わせることが重要です。
対応の順番
順番を入れ替えて、水分原因が残ったまま除去や仕上げを先行すると、再発によって同じ費用と客室・居室の停止期間が繰り返し発生することになります。
まとめ
何度も同じ客室や居室にカビが発生する場合、原因は室内側の清掃だけではない可能性があります。考えられる原因には、次のようなものがあります。
- 屋上や外壁からの雨水の浸入
- 屋上・外壁の断熱性能や断熱材の状態
- 梁、柱、スラブなどの構造上の熱橋
- 壁内部や天井裏への湿った空気の流入
- 配管や空調設備からの漏水・結露
- 換気設備や給排気バランスの問題
- 冷房設定、空室管理、入浴などの使用条件
これらは、ひとつだけでなく、複数が重なっていることがあります。そのため、最初から「壁内部のカビが石膏ボードを通って出てきた」「清掃が足りない」「冷房を弱めれば解決する」と決めつけることはできません。
重要なのは、カビが見えている場所だけではなく、なぜその場所に水分が集まっているのかを確認することです。
カビの再発でお困りの施設ご担当者さまへ
何度カビを除去しても再発する、カビ臭が戻る、最上階や外壁側の部屋に集中しているなど、発生原因を解明したい場合はご相談ください。
弊社では、現地の発生状況を確認したうえで、含水率測定、サーモグラフィ、温湿度記録、壁内・天井裏の確認、空気の流れの把握、カビの測定などを組み合わせ、原因となっている場所と再発防止策を整理します。屋上の断熱・防水、建物の構造、空調・換気、配管などの改修が必要と判断される場合は、必要に応じて建築・設備の専門業者と連携しながら対応方針をご案内します。
参考
- U.S. EPA「Mold Remediation in Schools and Commercial Buildings」
https://www.epa.gov/mold/mold-remediation-schools-and-commercial-buildings-guide - U.S. EPA「A Brief Guide to Mold, Moisture and Your Home」
https://www.epa.gov/mold/brief-guide-mold-moisture-and-your-home - ASHRAE TC 1.12「Moisture Management in Buildings」/「Humidity Control Design Guide for Commercial and Institutional Buildings」
- 国内の断熱・気密および内部結露防止に関する技術資料

