事例の概要
香川県高松市の製品品質を脅かす倉庫のカビ原因を特定するため、複数指標を用いた精密調査を実施し、大規模施工を回避しつつ、具体的な数値基準による再発防止の道筋をつけた事例です。
課題
- 製品そのものにカビが発生し、品質や出荷に影響が出ていた
- 感覚的な推測ではなく、データに基づく原因特定が必要だった
- 倉庫全体ではなく、リスク箇所を特定し局所的に改善したかった
成果
- 倉庫全体の大規模施工が不要であることを数値で証明した
- 改善すべき箇所が特定され、対策を局所的に絞り込めた
- 具体的な数値基準が示され、社内ルールとして運用可能になった
抱えていた課題/依頼の背景

今回ご相談いただいたのは、資材物流センターを管理されている建材メーカー様(以下、同社)です。倉庫内で保管している製品やその梱包材に、カビが確認されたとのことでした。
カビの発生箇所が建物の壁や床ではなく、製品そのものであったため、これは単なる美観の問題ではありません。製品の品質、ひいては出荷や顧客対応に直結する、事業の根幹に関わる深刻な課題でした。カビの発生範囲や原因、そして有効な再発防止策が分からず、具体的な対策を打てない状況にいらっしゃったのです。
そのため、「倉庫が暑いから」「湿気が多いから」といった曖昧な説明ではなく、複数の客観的なデータに基づいた原因の特定が求められていました。また、コストをかけて倉庫全体を闇雲に施工するのではなく、リスクの高い場所や保管条件をピンポイントで特定し、そこだけを効率的に改善したいという明確なご意向をお持ちでした。お問い合わせの当初から、倉庫全体の傾向をデータで把握したいという、問題解決に向けた強い意志が感じられました。
今回案件のポイント
本件の成否を分けたポイントは、カビがどの段階で付着し増殖したのか、その発生源を正確に切り分けることにありました。製造・出荷の時点で既にカビていたのか、それとも倉庫での保管中に問題が生じたのかで、改善すべき対象が製造工程か倉庫環境か、まったく異なってくるためです。
この論点を明らかにするため、弊社では入荷直後の製品と倉庫内で長期間保管されている製品、双方の清浄度を比較する調査を設計しました。さらに、倉庫全体の平均的な温湿度だけでは捉えられない問題にも着目しています。壁際や隅、梱包材の間といった空気が動かない場所では、局所的にカビが増殖しやすい環境(微気象)が生まれます。この仮説を検証すべく、倉庫内28地点で浮遊菌を測定し、場所ごとのリスクの差を可視化しました。
調査の結果、倉庫全体が高濃度に汚染されているわけではなく、一部にリスクの高い箇所が存在するという構図が明らかになりました。これにより、全面的な除カビ施工ではなく、局所的な管理改善で対応できる可能性が示されました。原因を整理するだけでなく、現場スタッフの方々が日々の業務で実践できるよう、湿度、風速、壁からの距離、保管日数といった具体的な数値基準として再発防止策を提示したことも、今回の重要な点です。
依頼から診断完了までの流れ

ご依頼をいただいてから診断完了までの主な流れは、以下のとおりです。
- 現地調査
浮遊菌検査、付着菌検査、簡易菌種同定、ATPふき取り検査(汚れの量を数値化する検査)、含水率検査、現場写真の記録、温湿度確認、気象条件の検討を行いました。原因の切り分けに必要なデータ量を確保するため、基本検査に加えて40検体を追加で採取しています。 - 浮遊菌検査(倉庫内28地点)
倉庫内の空気中に浮遊するカビ胞子の量を28地点で測定した結果、25地点は「問題なし」、3地点が「準汚染」レベルであり、「汚染」レベルの地点は0でした。このことから、倉庫全体が高濃度に汚染されているわけではなく、一部にリスクの高い場所が存在すると判断しました。 - 付着菌検査・簡易菌種同定
製品に付着したカビを特定したところ、ペニシリウム属やアスペルギルス属が確認されました。これらは極端な高湿度でなくとも増殖しうるカビであり、倉庫の湿度が基準値内だから安全とは言い切れないことを示唆しています。 - ATPふき取り検査
製品表面の清浄度を測定したところ、同じ倉庫内でも場所によって数値に大きな差が見られました。位置や包装の状態、空気の流れ、保管期間によって、カビが増殖するリスクが大きく異なることがデータで裏付けられました。 - 入荷直後品と保管品の比較
入荷してすぐの製品は比較的清浄度が高い一方、倉庫内で保管されていた製品からは高い汚染値が確認されました。この結果から、製造・出荷段階よりも、倉庫での保管中にカビのリスクが高まる傾向にあると整理しました。 - 含水率検査
木材の水分量を測定した結果、多くは安全域でしたが、一部でカビ発生のリスクが高まる20%に近い数値も確認されました。平均値だけでなく、湿気が溜まりやすい端部などを重点的に管理すべきことを示しています。 - 温湿度・気象条件の検討
倉庫内の温湿度データと外部の気象条件を照らし合わせ、特に10月頃まではカビが発生しやすい環境が続くものと分析しました。 - 報告書の作成・原因の考察
調査から約2週間後、各種データを統合した報告書を提出しました。カビ発生の主な原因として、梱包内部や壁際で空気が滞留する「微気象」の発生、気流不足、そして保管過程で付着した胞子の3点を、優先順位をつけてご報告しました。 - 再発防止策の提示(運用基準)
現場で実践可能な管理指標として、「倉庫内の湿度:55%以下」「壁際の風速:0.2〜0.5m/sを確保」など、具体的な数値を盛り込んだ運用基準を提示しました。併せて、梱包方法の見直しといった選択肢も示しています。 - 発生品の処置方法の提示
カビが確認された製品について、一律に廃棄するのではなく、除菌・乾燥処置によって再利用できる可能性を提示しました。また、廃棄する場合でも、他の製品への汚染拡大を防ぐための手順を推奨しています。
得られた結果
浮遊菌調査により、倉庫全体の大規模なカビ取り施工が不要であることを数値で証明しました。改善すべき3地点の準汚染区域とATP値が高い箇所を特定し、対策を局所的に絞り込むことができています。
また、保管中の製品でリスクが高まる傾向が確認され、改善の対象が倉庫の保管環境であることが明確になりました。湿度・風速・離隔距離・滞留期間に関する具体的な運用基準が提示されたことで、社内ルールへの反映も可能になっています。
さらに、カビ発生品の一律廃棄を回避し、処置による再利用と、二次汚染を防ぐ廃棄方法が整理されました。
今回案件で発揮できたハーツリッチの強み
1:平均値では見えない局所的な汚染を特定し、全面施工を回避

倉庫全体の温湿度は基準内にもかかわらず、なぜ製品にカビが発生するのか。この問いに答えるためには、平均値のデータだけでは不十分でした。闇雲な対策は、コストの増大を招くだけで根本解決には至りません。
そこで弊社は、壁際や柱の近く、梱包材の間など、空気が滞留しやすい場所で生まれる局所的な高湿度環境、いわば「微気象」の存在を疑いました。倉庫内28地点にもおよぶ浮遊菌調査やATP検査を実施し、カビのリスクがどこに偏在しているのかを徹底的に可視化しています。
その結果、汚染区域がゼロであることを数値で証明し、全面的な除菌施工が不要であると結論付けました。改善すべき箇所をピンポイントで特定できたことで、お客様は費用対効果の高い具体的な対策を立案できるようになったのです。
2:発生段階の切り分けで、改善すべき根本原因を明確化
製品に付着したカビは、いつ、どこで付いたものなのか。この問いは、品質責任の所在や対策の方向性を決定づける、極めて重要な論点でした。製造工程に問題があるのか、それとも倉庫での保管環境に原因があるのかが不明なままでは、有効な手は打てません。
この課題を解決するため、入荷直後の製品と倉庫で保管されている製品、双方の清浄度を比較分析しました。複数のデータを照合した結果、倉庫での保管中にカビのリスクが高まるという傾向が明確になりました。
この事実により、改善すべき対象が倉庫の保管環境であると特定できました。原因の切り分けができたことで、社内での議論や対策の検討が的確に進められるようになり、お客様が抱えていた大きな懸念の一つが解消されました。
3:現場が動ける具体的な数値基準で、再発防止策を提示
「湿度を下げましょう」「風通しを良くしましょう」といった曖昧な方針だけでは、現場の運用は変わりません。日々の業務に落とし込むためには、誰が担当しても同じ判断ができる、客観的な基準が必要不可欠です。
弊社は、原因を分析して終わりではなく、その先の「具体的な打ち手」までご提案します。今回は、「湿度55%以下」「壁際の風速0.2〜0.5m/s」「製品と壁の距離は15〜20cm」「同じ場所での保管は10日以内」という、現場が即座に実行できるレベルの運用基準を提示しました。
これらの具体的な数値基準は、そのまま社内ルールとして採用できるものです。これにより、担当者ごとの判断のばらつきを防ぎ、組織全体として継続的な品質管理を徹底していくための、確かな土台が整いました。
代表 穂苅からのコメント
メーカー様や倉庫にとって、製品そのものにカビが発生することは、数千万円から数億円規模の損失につながりかねない重要事項です。だからこそ、そのカビがいつ、どこで付着したものなのかを切り分けることが、解決の第一歩となります。弊社は建築とカビ、両方の知見を活かし、今回のような入荷直後品と保管品を比較する調査設計で、問題の核心に迫ります。原因が明確になれば、お客様は「次に何をすべきか」を確信して前へ進むことができます。その判断の土台をつくることが、弊社の役割だと考えています。
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メーカー様や倉庫にとって、製品そのものにカビが発生することは、数千万円から数億円規模の損失につながりかねない重要事項です。だからこそ、そのカビがいつ、どこで付着したものなのかを切り分けることが、解決の第一歩となります。弊社は建築とカビ、両方の知見を活かし、今回のような入荷直後品と保管品を比較する調査設計で、問題の核心に迫ります。原因が明確になれば、お客様は「次に何をすべきか」を確信して前へ進むことができます。その判断の土台をつくることが、弊社の役割だと考えています。