1.目的
室内における浮遊真菌の測定値は、室内全体で常に均一になるものではなく、測定位置、時間、空調設備の運転状況、人の活動、温湿度、外気環境等の影響を受けて変動します。
そのため、室内の浮遊真菌汚染状況を把握するためには、一つの測定点のみで空間全体を評価するのではなく、対象面積や室内の区画、利用状況、カビや水分の発生状況等を考慮して複数の測定点を設定することが重要です。
ハーツリッチ株式会社では、こうした浮遊微生物の空間的不均一性を考慮し、浮遊真菌検査における標準的な測定点数を以下のとおり設定しています。
2.当社の測定点数基準
当社では、室内の浮遊真菌検査について、
原則として、おおむね床面積10㎡につき1検体以上の採取を推奨します。
また、調査範囲全体の状況を把握するための最低限の測定密度として、
少なくとも床面積20㎡につき1検体以上
を目安とします。
ただし、単純に床面積のみから測定点数を決定するものではありません。
寝室、居室、廊下、収納、地下室等のように空間が分かれている場合には、原則として各独立室・区画につき少なくとも1検体を設定します。
さらに、以下の条件が認められる場合には、床面積にかかわらず測定点を追加します。
・目視可能なカビが確認される箇所
・漏水、水濡れ、結露等が確認される箇所
・カビ臭が確認される箇所
・空調設備や換気条件が異なる区画
・建材や用途が大きく異なる区画
・汚染が疑われる区域と比較対象となる区域
・その他、調査目的上追加測定が必要と判断される箇所
したがって、「10㎡につき1検体」および「20㎡につき1検体」は、機械的に検体数を決定するためのものではなく、必要な測定点数を判断する際の標準的な測定密度として使用します。
3.測定点数を複数設定する理由
American Industrial Hygiene Association(AIHA)の室内カビに関する空気サンプリングガイダンスでは、空気中のカビ胞子濃度は時間的・空間的に大きく変動することから、一つのサンプルのみを区域全体の代表値とみなすことは適切ではないとされています。
また、必要な検体数について一律の数値を設定することはできず、調査目的、室内環境、測定場所等を考慮して複数の検体を用いて評価する必要があるとの考え方が示されています。
米国環境保護庁(EPA)においても、カビの空気サンプリングは測定時点における空気環境を示す「一時的な情報」であること、また、不十分な検体数による調査では誤解を招く結果となる可能性があることが指摘されています。
このため当社では、1検体のみから広い空間全体を評価することを避けるため、対象床面積に応じて検体数を増加させる方法を採用しています。
4.面積に応じて測定点を増やすことに関する公的規格
空気中微生物の測定において床面積に応じて測定点を増加させる考え方は、公的な規格にも採用されています。
例えば、中国国家標準「GB/T 18204.3-2025 公共場所衛生検査方法 第3部:空気微生物指標」では、空気中の細菌だけでなく「真菌総数」も正式な測定対象として規定されています。
同規格では、対象となる場所の面積等に応じて測定点数を増加させる方式が採用されており、空気中微生物の評価において対象空間の規模を考慮して測定位置を複数設定する考え方が示されています。
なお、同規格の測定点数をそのまま当社基準として採用しているものではありません。
当社では、室内の浮遊真菌には空間的なばらつきが存在すること、また建築物のカビ調査では局所的な汚染を把握する必要があることを考慮し、より高密度な調査を行うための自主的な品質管理基準として「10㎡につき1検体を推奨、最低でも20㎡につき1検体」を設定しています。
5.本基準の位置付け
現在、日本国内および主要な国際規格において、
「建築物のカビ調査では必ず10㎡につき1検体を採取しなければならない」
という統一された法的基準は確認されていません。
したがって、当社の「10㎡につき1検体」という数値は、法令またはISO等によって直接規定された数値ではありません。
これは、
・浮遊真菌には空間的・時間的変動があること
・単一検体では区域全体を代表できない場合があること
・十分な検体数を確保することが調査の信頼性向上に重要であること
・公的な空気微生物測定規格においても面積に応じて測定点数を増加させる方法が採用されていること
等を踏まえ、調査結果の再現性および代表性を高めることを目的として当社が設定した自主的な測定基準です。
6.証拠性を特に重視する調査
訴訟、保険事故、漏水事故、施工責任の確認その他、調査結果の証拠性が特に求められる案件については、通常の測定点に加えて、
・汚染が疑われる区域
・比較対象となる非汚染区域
・屋外空気
・必要に応じた同一条件での反復測定
等を組み合わせ、単一の測定結果だけではなく複数の測定結果および現地調査結果を総合して評価します。
また、浮遊真菌検査のみでカビ発生原因や健康影響等を断定することはせず、目視調査、温湿度、含水状態、漏水・結露状況、換気・空調状況等の調査結果と併せて総合的に評価します。
参考資料
・American Industrial Hygiene Association(AIHA), “FAQs About Spore Trap Air Sampling for Mold for Direct Microscopical Examination”
・United States Environmental Protection Agency(U.S. EPA), “Mold Remediation in Schools and Commercial Buildings”
・United States Environmental Protection Agency(U.S. EPA), “A Brief Guide to Mold, Moisture and Your Home”
・GB/T 18204.3-2025, Examination methods for public places — Part 3: Airborne microorganism indicators
